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遺言相続の基礎知識 Q&A

Q1. 財産が少ない場合は遺言を作成しなくてもトラブルにならないのでは? A. 近年、相続トラブルが増加しており、2019年に裁判所に持ち込まれた遺産分割事件の件数は約1万6000件で10年前より5000件以上増えています。
 もし、相続トラブルになっても「裁判所が適切な判断をしてくれるから心配していない」と考えるかもしれませんが、調停になると数ヶ月から1年以上に渡って審議が行われる事になり、精神的・時間的な負担がかかることになります。また、遺産分割事件の遺産額別の統計では遺産が5000万円以下の割合が全体の約75%で、財産が少ない方がトラブルになりやすい傾向があります。
 相続トラブルは、様々な面で大きな負担になり、それまで仲が良かった家族関係を壊す事もあります。亡くなられた後に、残された家族間で相続トラブルにならないよう、生前に遺言書を作成し、財産を相続させる人を指定する事で争いを防げる事がありますので、公正証書遺言を作成することをお勧めします。

Q2. 父の記憶力や判断力が衰えてきているので法定後見の利用を考えているのですが、息子である自分が後見人に就任できますか。
A. 成年後見制度が施行されたのが2000年4月で、施行から数年間は親族が後見人に選ばれるケースが多かったのですが、その後、親族後見人による財産管理がきちんとできていなかったり、使い込みなどが頻発したこともあり、最近では親族後見人の就任を希望しても、今まで面識がなかった弁護士や司法書士などの専門家が就任するケースが多くなっています。特に被後見人の財産が一定以上ある場合は、申立時に希望しても親族が後見人に選ばれる事は少なくなっていますので、法定後見制度を利用する前に慎重に検討する事が必要です。
 その他の対策としては民事信託や任意後見制度があり、意思能力や判断力が低下する前であれば自分の意思が反映されるような対策をたてる事が可能となりますので、認知症の症状が出る前にこれらの制度を含めて検討するべきだと考えます。
   
Q3. どのような場合に遺言を作成しておく必要性が高くなりますか。
A. 主に下記の5つの場合は遺言を作成する必要が高くなります。
①夫婦間に子がいない場合…子がなく、親も既になくなっている場合は配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1を相続する事になりますが、兄弟姉妹には遺留分がないため遺言で全ての財産を配偶者へ相続させる旨の遺言があれば全て妻や夫が相続する事ができます。
②子供の嫁に財産を分けてあげたい場合…生前に献身的に介護していた子供の嫁が財産を分けてもらうためには改正後の民法により、特別寄与者による特別寄与料が請求できる事になりましたが、それで得られる金額は十分ではないため、遺言で相当な財産を遺贈する必要があります。
③再婚して先妻の子と後妻がいる場合…先妻は他人となっているため相続権はありませんが、先妻との間の子の相続権は消滅しないため、再婚後にできた子により多くの財産を相続させたい時は生前に遺言を残しておくべきです。
④内縁の妻がいる場合…内縁の妻には相続権はありませんので、遺言を残さずに亡くなると親が既に亡くなっている場合は全ての財産が兄弟姉妹が相続することになります。「全財産を内縁の妻に包括して遺贈する」との遺言を作成しておけば兄弟姉妹には遺留分侵害請求権がありませんので、全ての財産を内縁の妻に遺贈する事が可能となります。
⑤独身で相続人が全くいない場合…遺言がなく相続人が全くいない場合は遺産は国庫に帰属する事になります。遺言を作成しておく事で自分が世話になった人や財産を譲りたい団体などへ包括して遺贈する事ができます。

Q4. 遺言の内容と異なる遺産分割はできますか。
A. 相続人全員の同意があれば、遺言の内容と異なる遺産分割をすることが可能です。遺言通り分割することが税務上不都合であったり、遺言の内容が原因で相続人間で争いを生じさせたりする場合などは遺言が残されていても遺産分割協議をする意義があります。また遺言執行者がいる場合、遺言執行者は相続人の意向にかかわらず遺言を執行する事ができますが、相続人全員が遺言と異なる遺産分割を行う事を望んだ場合、遺言執行者がそれに同意すれば、その処分行為は有効であると考えられます。
   
Q5. 法定相続人がいない場合、亡くなった後の財産はどうなりますか。
A. 法定相続人とは、被相続人の配偶者、直系卑属、直系尊属、兄弟姉妹等が該当します。被相続人が亡くなった時点において独身で両親が既に亡くなっており、兄弟姉妹もいない場合は法定相続人が不存在という事になります。
相続人がいない場合は最終的には国庫に帰属されることになりますが、亡くなった後すぐに国庫に帰属されるという訳ではありません。
まずは、被相続人と利害関係のある人(債権者等)や検察官によって、被相続人の遺産を管理する相続財産管理人を選任します。
公告によって財産管理人が選任されたことが公表され、公告後二ヶ月経過しても相続人が現れない場合は、財産管理人は債権者等に対して債権の申出に関する公告を行います。その後、相続人捜索の最終公告を行い、相続人不存在が確定します。
相続人不存在が確定した後、被相続人の遺産は特別縁故者による財産分与か国庫に帰属するかのいずれかとなります。
特別縁故者に該当する要件は①被相続人と生計を同じくしていた者②被相続人の療養看護に努めた者③その他被相続人と特別の縁故があった者で以上の条件のうちどれかに該当しなければなりません。
特別縁故者が財産分与の請求を行うためには、家庭裁判所に申立を行う必要があり、法定相続人が見つからず申立が認められれば財産分与請求が可能となります。
相続人もいない、特別縁故者もいないという場合には最終的に遺された遺産は国庫に帰属することになります。特別縁故者になるためには1年以上かかる可能性があり、申出をしても必ず特別縁故者になることが出来るという訳でもありませんので、自身に相続人がいない場合に財産を渡したい人や団体がいるのであれば遺言書を作成しておく事をおすすめします。
   
Q6. 自筆証書遺言の場合は遺言執行前に必ず検認の手続きが必要ですか。
A. 自筆証書遺言の保管者は相続の開始を知った後は遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して「検認」を請求しなければなりません。
検認とは、相続人に対して遺言の存在およびその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の現状を確認し、遺言書の偽造・変造を防止する手続きです。なお、検認は証拠保全の手続きに過ぎず、遺言書の有効・無効を判断する手続きではありません。
また検認の手続きが完了するには、家庭裁判所に検認の申立をしてから一ヶ月程度を要し、戸籍謄本の収集等の申立ての準備を含めると行動を起こしてから二ヶ月程度要します。
なお、2020年7月10日より自筆証書遺言保管制度が開始しましたので、この保管制度を利用すると検認の手続きが不要となります。
 
Q7. 古い日付の遺言は公正証書ですが、新しい日付の遺言は自筆証書です。どちらの遺言が有効でしょうか。
A. 遺言者は、いつでも遺言の方式に従って、その遺言の全部または一部を撤回することができます。
どちらの遺言が有効かは、あくまで遺言が作成された日時で決まります。よって遺言の方式に従っている場合、新しい日付のものが有効になります。公正証書か自筆証書かの違いでは決まりません。
また、前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなします。後の遺言に抵触している部分のみが撤回したものとみなすのであり、前の遺言全体を撤回とみなすわけではありません。

Q8. 将来取得する予定の不動産を相続させる旨の遺言を作成する事はできますか。
A. 相続の対象は、遺言者が相続開始時において所有する全ての財産となりますので、遺言者が遺言作成時に所有していなかった財産であっても、相続開始時に所有している財産であれば、相続の対象となります。
遺言に将来取得する財産を特定して書いていても、実際は取得しなかった場合は、当該財産の記載部分についての遺言は撤回したとみなされます。ただし、遺言で将来取得予定の財産を特定したところ、遺言に書いた財産を超えて取得した場合は、超える部分については遺言の対象外になる可能性があります。 
       
Q9. 遺言に家族への感謝の気持ちを記載したいのですが可能ですか。
A. 遺言に家族への感謝の気持ちや兄弟間の融和の依頼などを記載する事は可能ですが、法的な効力は生じませんので強制力も生じません。このように法律に定められていないことを遺言でする事項の事を「付言事項」といいます。
例えば希望、事実、訓戒などを遺言に付言したときは、その事項は法的な効力を生じませんが、遺言者の意思が尊重されて結果的に希望等が実現されることがあります。もっとも公序良俗に反することは付言しても当然に無効です。
法的効果のある遺言の本文を心の部分で側面から支えるのが付言です。状況や家族関係にもよりますが、遺言者の気持ちや想いが相続人に伝われば遺留分侵害請求を防ぐ効果があるかもしれませんので、本文とセットで書くことをお勧めしています。
   
Q10. 自筆証書遺言でパソコン等の印字による作成、ビデオ、録画による遺言はできますか。
A. 自筆証書遺言は、遺言者が遺言のすべての事項について自書することが要求されていますので、パソコンやワープロの印字による遺言および遺言者が他人に筆記させた遺言はいずれも無効です。ただし、改正民法968条2項は「自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。」旨を規定しましたので、上記目録についてはパソコンやワープロの印字は有効となります。
また、ビデオや録音テープによる遺言は故意に編集したりして遺言者の意思が正しく表示されないこともあり得るため、法はこれを認めていません。ただし、自筆証書遺言の場合は、遺言が遺言者の真意に基づくかが争われやすいので、自筆証書遺言が真意に基づくものであることを立証する手段として活用することは可能です。

Q11. 公正証書遺言で証人になった人でも遺言執行者に指定できますか。また公正証書遺言で相続を受ける者も遺言執行者に指定できますか。
A. 遺言執行者は遺言に書かれたことを忠実に執行すればよいため特に資格要件はありません。よって公正証書遺言で証人に指定された人でも遺言執行者に指定する事ができますし、また公正証書遺言で相続を受ける者、遺贈を受ける者も遺言執行者に指定することができます。
遺言執行者は遺言を執行するための一切の権限を与えられていますが、遺言書に「遺言執行者は、遺言者名義の不動産の名義変更、遺言者名義の預貯金の名義変更、払い戻し、解約、貸金庫の開扉、内容物の点検、貸金庫契約の解約等本遺言を執行するための一切の権限を有する。遺言執行者は第三者にその権限の全部または一部を代理して行わせることができる。」と記載しておけば遺言執行手続きを円滑に進めることができます。

Q12. 尊厳死宣言を遺言ですることは可能ですか。
A. 「尊厳死宣言」というのは、死のあり方についての自分の考えを公証人に語り、公証人がこれを公正証書として作成するもので、事実実験公正証書の一種です。
尊厳死宣言は、あくまでも死の問題を扱うものであり、遺言のように遺言者の死後の身分関係や財産をどう分配するかを問題とし、遺言者の死後にその効力が発生するものとは根本的に違いますので、遺言でしても意味をなしません。
尊厳死宣言は公証人が作成するため公正証書遺言と同様公文書であり、依頼者本人が署名するだけでなく公証人も署名押印します。公正証書遺言と違い証人は不要です。各公証役場には、尊厳死宣言の記載例が用意されており、すぐに作成することが可能です。

Q13. 相続債務についても相続人間で分割協議をすることができますか。
A. 金銭債務については、債務者が死亡し、相続人が複数いる場合に、相続人の金銭債務は法律上当然に分割され、各共同相続人がその相続分に応じて当該債務を承継するとされています。しかし、共同相続人間で債務の負担者を決める協議自体を行うことは可能です。ただし、債権者が承諾しない限り、債権者に対しては法定相続分に応じた責任を負うことになり、協議の内容を債権者に対抗することはできません。

Q14.夫婦で、相互に相手方に遺産を相続させるという遺言をしたいのですが、一通の遺言書で作成することは可能ですか 。
A. 民法975条は、「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。」と規定していますので、夫婦といえども一通の遺言書で作成した場合は無効となります。したがって、夫婦が同時に遺言をする場合は、夫婦それぞれが別々の書面に遺言を作成しなければなりません。
このように共同遺言を禁止したのは、遺言は遺言者の自由な意思表示で、いつでも撤回や変更ができる事とされているのに共同遺言を認めるとこれが制約されるからです。

Q15. 遺言でペットの行く末が心配ないようにしたいのですが、どのような遺言を作成すればよいでしょうか。
A. ペットの行く末が心配な場合には、自分のペットを親身になって世話をしてくれる人に、自分の遺産の内からペットが死ぬまで十分な費用を見積もり、またペットの世話をしてくれる人にお礼を見積もって総額を出して、その金額を遺言でその人に相続あるいは遺贈することにします。
文例としては「遺言者は、Aに現金〇万円を遺贈する。ただし、Aは生涯にわたり、遺言者のペット〇〇を介護扶養し、死亡の場合は相当な方法で埋葬、供養しなければならない。」という負担付遺贈の内容にするといいでしょう。

Q16. 自分が希望する葬儀や埋葬の方法を遺言で決めておくことはできますか。
A. 祭祀財産の承継者を、被相続人の指定で決めておくことはできますが、決められることは祭祀財産(位牌・お墓等)を承継する人です。葬儀や埋葬の方法は、法的な効力を有する法定遺言事項ではありません。また、遺言で葬儀の方法を記載しても遺言を確認するのは葬儀終了後になることが一般的ですから意味をなしません。
ただし、法的な効力はなくても、遺言者の希望、事実、訓戒などを付言として遺言に記載する事は可能です。法的効力を持たせたい場合は、生前に信頼できる受任者との間で死後事務委任契約を締結する必要があります。

Q17. 不動産を遺贈する場合、遺言執行者を決めておいた方がいいですか。
A. 遺言執行者がいる場合は、特定遺贈・包括遺贈ともに所有権移転登記は、遺言執行者と受遺者の共同申請により行うことになっています。
遺言執行者がいない場合、遺贈の登記は共同相続人全員と受遺者の共同申請となり手続きが煩雑になる可能性があります。したがって、遺贈の場合は遺言執行者を決めておいた方がよいです。なお、遺言執行者と受遺者は兼ねることが可能なので、そうしておけば受遺者だけで登記申請手続きができることになります。

Q18. 一部の相続人にのみ相続財産を相続させる旨の遺言がある場合、その他の相続財産はどのように分ければいいですか。
A. 被相続人は、相続人全員につき、もれなく相続分を指定する事もできますが、一部の相続人についてだけ相続分を指定することもできます。指定した相続分が法定相続分を上回る場合には、相続分の指定を受けなかった他の相続人の相続分は法定相続分の規定に従って定められます。
例えば、相続人が3人の子のみである場合、被相続人が1人の子にのみ2分の1の相続分を指定した時は、残りの2人の相続分は4分の1ずつとなります。

Q19. 遺言と同じ内容の遺産分割協議書を作成する意味はありますか。
A. 遺言書の内容が遺留分を侵害している場合は、遺留分侵害額請求をされるおそれがあります。その期間は、遺留分を侵害されていることを知った日から1年です。
この期間に遺留分侵害額請求をされるリスクをなくすための方法として、遺言と同じ内容の遺産分割協議書を作る意味があります。遺産分割協議書を作成すれば、遺産分割は確定し遺留分侵害額請求ができなくなるからです。

Q20. 相続人は息子一人で全ての財産を息子に相続させたいと考えていますが、遺言書を書く必要がありますか。
A. 遺言がなくてもこのケースでは全ての財産が息子様に相続されますが、遺言では遺言者の想いを伝える「付言」を書くことができます。引き継ぐ財産に込めた想いを息子様に伝えたい場合は遺言を書く意味があるでしょう。
また、相続人に意思能力がない場合は相続人が一人でも相続手続きをするのに成年後見人が必要です。しかし、相続後も成年後見人の管理下のもと、財産管理を行わなければならないため後見人を付けることをためらう人は多いです。改正後の民法1014条2項では、「相続させる」旨の遺言があったときは遺言執行者は当該共同相続人が対抗要件を備えるために必要な行為をすることができるとされましたので、被相続人名義の財産を意思能力のない相続人名義に変えることができると考えられます。

Q21. 亡くなった父が銀行と貸金庫契約をしていましたが、共同相続人である私が単独で貸金庫の開扉を請求できますか。
A. 保存行為であるとして共同相続人の中の1人による貸金庫の開扉請求を認めた判例がありますが、実務上は処分行為に該当するとして共同相続人全員でこれをするように求めているようです。1人の相続人が単独で貸金庫を開けると、その人が中身を抜き取って財産を着服する可能性があるからです。銀行の立場では、一部の相続人にだけ貸金の開扉を許すと、他の相続人から責任を追及される恐れがあります。そのため、実務上は契約者の死亡を知った時点で貸金庫の開閉を一時的に停止し、契約者の死亡で開閉が停止された貸金庫は、相続人全員の同意がなければ開けることができなくなります。

Q22. 息子が日常的に暴力をふるうため、私が亡くなった後に遺産を渡したくありません。何か方法がありますか。
A. 相続人の廃除が認められれば相続人の相続権を奪う事が可能です。廃除が認められるのは被相続人に対して相続人が度々暴力をふるう、暴言を吐く、侮辱する等、酷い行為が日常的にあった場合です。
手続は、被相続人が生前に家庭裁判所に申し立てる方法と、遺言に「廃除する」という意思を明記しておく方法があります。遺言の場合は、遺言執行者が廃除の審判の申し立てをすることになります。相続人の廃除が認められると、遺留分を得る権利も奪われますが、廃除によって権利を失った相続人に子がいる場合は代襲相続が認められます。

Q23. 相続人である母が認知症ですが、遺産分割協議はどのようにすればよいですか。
A. 相続人に認知症の人がいる場合には、遺産分割協議に参加しても、自分で判断することができないとみなされ、後に協議自体が無効とされる可能性があります。
遺産分割を有効に成立させるためには、遺産分割協議を始める前に、家庭裁判所で成年後見人を選んでもらう必要があります。主に本人の親族や、法律・福祉の専門家から選任され、選任された成年後見人は認知症の相続人の代理として遺産分割協議に参加することができます。


Q24. 父が契約者である借家に住んでいますが、父が亡くなった後も継続して住むことが可能ですか。
A. 賃借している土地や家の権利は、財産上の権利として相続の対象となります。借りた土地に建てた家や借家に住んでいる相続人は、借地権や借家権の名義人である被相続人が亡くなった場合でも、借地契約・借家契約の権利を相続することができます。被相続人の死亡によって、その契約者としての地位を相続人が引き継ぐことになりますので、名義の書き換えなどの手続は不要で、貸主から立退きや契約解除を要求されても応じる必要はありません。

  
Q25. 先日父が亡くなり、多くの服や愛用品が残されましたが、どうすればよいですか。
A. 服や愛用品は動産ですので、相続財産として遺産分割の対象となります。ただし、服や愛用品は財産的価値が低く、評価額の算定も難しいため、財産として価値がないゼロ評価とすることが多くなります。そのため、財産の一部として分割するよりも、形見分けとして配分されることの方が多いです。また、形見分けは遺産分割とは別の手続きとなります。


Q26. 私が死亡した場合、未成年の子供だけが残ってしまうため心配ですが、子供はどうなるのでしょうか。
A. 未成年者には親権者が必要で、通常であれば両親が親権者となります。自分が死亡した後に親権者がいなくなるような場合は、最後に親権を持っている人は遺言で未成年後見人を指定することができます。遺言で指定されていない場合は、親族等の請求によって家庭裁判所が親族や弁護士などから選任することになります。いずれの場合でも未成年後見人には親権者と同様の権利義務があります。


Q27. 遺産分割協議をしていますが、協議がまとまりそうにありません。今後の手続きはどうなりますか。
A. 遺産分割協議は相続人全員で行う必要があり、1人でも合意しない者がいる場合は協議が成立しません。このような場合は管轄の家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる事ができます。
調停手続きでは、裁判官と調停委員が各当事者から事情を聴取し、必要な資料を提示させ、遺産について鑑定を行うなどして各当事者の希望を踏まえて解決のために合意を目指す話し合いを行います。
話し合いがまとまらず調停が成立しない場合は、審判手続きに移行します。審判手続きでは、裁判官が遺産に属する物又は権利の種類及び性質その他一切の事情を考慮して審判をすることになります。


Q28. 息子に強迫されて遺言を作成しましたが、取り消すことができますか。
A. 民法1022条に「遺言者はいつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部及び一部を撤回することができる。」と規定しているので、遺言者はいつでも詐欺、強迫によってさせられた遺言を撤回することができます。
また、民法96条1項は「詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。」と規定していますので、遺言者は詐欺、強迫による遺言を取り消すという意思表示をすれば、その遺言は無効になります。ただし、実務的には、遺言の撤回か新たな遺言をする方が遺言者の意思が明確に伝わります。
なお、詐欺、強迫によって被相続人に遺言をさせた者は、相続欠格者または受贈欠格者となり、相続人又は受遺者となることができなくなります。

   
Q29. 遺言に死後事務に関する事項が書かれていた場合、相続人はその内容に従う義務が生じるのでしょうか。
A. 遺言事項で法的に効力が生じる事項は、法律に定められた事項に限られています。遺言に付言事項として遺言者の意思などを書くことはできますが、法的拘束力はありません。法定遺言事項以外の死後事務を委任する場合は、別途死後事務委任契約を締結しておく必要があります。

   
Q30. 成年後見人がついていれば、死後事務委任契約を結んでおく必要はないのでしょうか。
A. 成年後見人がついていても死後事務委任契約が必要な場合もあります。成年後見人が行う事ができる死後事務委任契約は民法873条の2(成年後見人の死亡後の成年後見人の権限)に法定されています。具体的には、財産の保存、債務の弁済、火葬・埋葬に関する契約の締結、その他相続財産の保存に必要な行為が規定されています。例えば上記の権限にはない葬儀について委任をしておきたいおきたい場合は、死後事務委任契約を結んでおく必要があります。

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