死後事務委任契約について
当事務所では様々な相続事情の中でも、身近に相談に乗ってくれる人がいない「一人暮らしの方」もしくは「近い将来ひとり暮らしになる可能性の高い方」の終活もサポートしています。「死後事務委任契約」という言葉はあまり聞きなれないかもしれませんが依頼者様が亡くなられた後に、葬送・埋葬手続き、行政への各種届出、賃貸借契約等その他解約手続きを受任者が依頼者様や親族の代わりに行う契約の事です。
昨今は生涯独身の方が増え、また結婚していてもお子様がいない場合、配偶者に先立たれ高齢になった時に身寄りがなくなる事が多くなってきています。
将来的にはさらに独居老人の方の数が増え深刻な社会問題になってくると思われますので、本来なら国や行政機関が積極的に関与し対策をしていかなければならない問題だと考えていますが、ほとんどの自治体では葬送手続きのみを行うのが現状です。
この死後事務委任契約については実際に手続きを行う時は依頼者様は亡くなっているため、死後の手続きをお願いした受任者との信頼関係が何よりも大切になります。
健康で認知症の症状がない時から見守り契約、身元引受契約、任意後見契約等を通じて信頼関係を深め、この人なら自分が亡くなってからも安心して死後の手続きを任せる事ができるという気持ちになる事が必要だと考えます。
逆に死後事務委任契約を締結した後はほとんど会いに来ない、連絡も事務的であるなど、契約はしたが亡くなった後の事が心配になるという感情が出てきた場合は、生前に死後事務委任契約を解約し別の信頼できる人を探した方が賢明でしょう。
死後の手続きは想像以上に沢山の手続きをする必要があり、信用ができない受任者であれば依頼人がこの世から亡くなっており、親族がいない事をいいことに契約通りの手続きをしない恐れも出てきます。
そうならないように生前から見守り契約などを通じて、最後まで責任をもって手続きができるような信頼に足る人物かを見極める必要があります。
死後事務委任契約を行っている士業事務所はまだ少なく、依頼するにも費用がかかるため資金に余裕がない方は相談する事も躊躇されるかもしれません。
当事務所では資金等に余裕がない方でも相談・ヒアリングを通じて、生前にできる限り協力して手続きを行っておくことで費用を抑えて契約ができるような対策も講じておりますので安心してご相談ください。
死後事務委任契約の手続きには次のような項目があります。
①死亡時の病院への駆けつけ、遺体引取りの手配
②葬儀、埋葬の手続き
③各行政機関への手続き、年金事務所への届出
④賃貸住宅の明け渡し手続、遺品整理
⑤介護施設や入院費など諸費用の支払
⑥公共料金等、各種契約の解除
【各手続きについての詳細】
①死亡時の病院への駆けつけ、遺体引取りの手配
・入院前、入院中の事前調整
死亡後の手続きをスムーズに進めるために委任者が亡くなる前の事前調整が大切になってきます。入院をする際、病院は原則として身元引受人を求めますし、死亡や危篤の連絡が受任者に届くようにしたり、委任者の病状を確認できるようにしておく必要があります。したがって、入院の際や診察を受ける際に受任者も同席し、病院関係者とあらかじめ顔合わせをしておきます。
・死亡、危篤の連絡を受けた際の病院への駆けつけ、遺体搬送の手配
死亡・危篤の連絡が入れば病院へ駆けつけます。お看取りの後は遺体搬送の手配を行います。すべての病院が霊安室を備えているわけではないため、24時間以内に遺体を引き取ってくださいと言われるケースがほとんどです。よって、あらかじめ葬儀社は委任者と協議をして決めておき、速やかに遺体搬送の手配を依頼します。
・死亡診断書の受領
葬儀社の到着を待つ間、お看取りをした医師から死亡日時や死因などを記入した死亡診断書を受領します。死亡診断書の用紙は市区町村役場に提出する死亡届の用紙とセットとなっており、受任者側で死亡届に必要事項を記入します。注意しなければならないのは「届出人」の欄で死亡届の届出人になれる人は戸籍法第87条で定めらている事です。届出人になれるのは①同居の親族、②その他の同居人、③家主、地主または家屋もしくは土地の管理人、④同居の親族以外の親族、⑤後見人、保佐人、補助人
又は任意後見人及び任意後見受任者となります。
これらの人がいない場合は「公設所の長」として公的機関の責任者、もしくは「家屋管理人」として病院長の氏名・押印を依頼します。
・病室内の私物引取り
病院としては、空いたベッドにすぐ次の入院患者を受け入れる体制を作らなければならないという事情があります。遺体の搬送をしたら、当日中に病室も私物がない状態にして返さなければなりません。私物や貴重品をまとめて病院をあとにしますが、長期の入院となると結構な荷物になることもありますので、病院に来る際にあらかじめ運搬手段を確保しておきます。
・死亡届の提出、火葬許可申請
病院をあとにしたら、市区町村役場で死亡届の提出をします。死亡届が提出できる役所は戸籍法で決まっており、①死亡者の本籍地、②死亡地、③届出人の住所地のいずれかの市区町村役場の戸籍の届出窓口となっています。戸籍に速やかに死亡の事実を反映し、事後の手続きをスムーズに進めるということを考えた場合は本籍地の役所に提出するのがベストです。
また、死亡届と同時に行う手続きが火葬許可申請です。市区町村長が発行する火葬許可証が、遺体を火葬する際、火葬場に提出する必要書類となります。申請書には、火葬する予定の火葬場名も記入する必要がありますので、葬儀社との打ち合わせ時にあらかじめ決めておきます。これらの手続きは役所の休日・夜間窓口でも行うことが可能です。
②葬儀、埋葬の手続き
・葬儀の手続き
宗教儀礼を行う場合は寺院等の宗教施設や斎場のホールを借りて行うこともありますが、最近では宗教儀礼や祭壇の設置を行わずに火葬のみを行う「直葬」と呼ばれる葬法も増えています。遺体の火葬は火葬場でしか行うことができませんが、葬儀社を通じてしか予約を受け付けない火葬場が多いため、火葬のみでよいというご希望の場合でも、葬儀の施工の大部分は葬儀社に委託することになります。受任者は、葬儀社や参列者との連絡調整や遺骨の収骨など、「喪主」の役割を果たすことになります。
委任者の希望通りに葬儀を施工することに法律上の問題はなく、自分の希望通りに葬儀を執り行ってくれる人を選んでおけるのが死後事務委任契約のメリットであるといえます。
また、契約前に委任者と受任者との間で、宗教儀礼をするかしないか、何教・何宗の方式で葬儀を行うかといった葬儀の方式や、参列を呼びかける方のリスト作成など詳細を打ち合わせておき、契約書の文面に反映させたり、葬儀社や宗教者と事前調整を行うことも重要です。
・埋葬の手続き
火葬後の遺骨をどのように取り扱うかは委任者と受任者との間で細かく打ち合わせてプランを決定する必要があります。遺骨の取扱いについては法律上の様々な規制もあるため注意が必要です。
1.手許供養…遺骨は必ずお墓に納めないといけないという法律はありませんので、ご自宅に保管しておくことも可能です。ただし、受任者の手元でずっと保管しておくことは現実的ではないため、以下の方法のどれかを選択する必要があります。
2.家のお墓に納骨
寺院や霊園にある家墓は、寺院や霊園との契約上、お墓の名義人が存在し、管理料を納め続けている限り半永久的に維持できるシステムとなっている事が多いため、おひとり様のように後を継ぐ方がいない場合は、ご自身の遺骨を納骨できないばかりか、家墓そのものが無縁仏になってしまうリスクがあります。親族でない受任者が墓の権利を引き継いで維持・管理をしていくのは現実的ではないですし、霊園によっては、親族以外に権利を承継できないとしている所もあるため、事前に寺院や霊園との契約内容を調べておく必要性があります。
3.永代供養の納骨堂や合祀墓に納骨
家墓を維持できない方向けに数を増やしているのが永代供養墓と呼ばれるお墓で、寺院や霊園などがお墓の維持管理をするため、後を継ぐ人が不要で、納骨時以降の費用の支払も原則不要なのが大きな特徴です。
納骨堂と呼ばれる建物の中に棚を配置し、骨壺を個別に安置するタイプや、供養塔の下に他の方と合同で埋葬するもの、一定期間個別に安置した後に合祀するものなど、様々なタイプがあります。自分名義で家墓を所有している人は墓じまいとして、家族の遺骨を永代供養墓に移すことも検討する必要があるでしょう。納骨の際は、受任者が寺院・霊園に埋葬許可証を提出します。
4.樹木葬
樹木葬は、地面に穴を掘り、その中に遺骨を埋めるもので、その上に墓標代わりの樹木を植えたり、花壇を作ったりします。高価な墓石の購入が不要ですし、自然に還るという考えが人気の理由です。また、永代供養墓と同じく承継者を不要とするタイプが多いので、おひとり様向けのお墓といえます。
なお、墓埋法第4条1項において「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域にこれを行ってはならない。」と定めており、樹木葬ができる場所は、樹木葬墓地を整備している墓地内に限られます。自宅の庭や公園内、山林、原野など墓地以外の場所に遺骨を埋葬する事は、この法律に違反するため行うことはできません。
5.散骨
散骨は、遺骨を海や山に撒くもので、お墓を残さないので後の維持費がかからない、遺骨が自然に還るといった理由で最近増えてきている葬法です。現状、法律で禁止されているわけではありませんが、人骨に対する感情は人により様々であり、風評被害や近隣トラブルに繋がることもあるため、実施において慎重を期す必要があります。また散骨を禁止する条例のある自治体もあるため、陸上での散骨は原則避ける必要があります。
このような理由から、日本国内では海上で行う「海洋散骨」が主流です。散骨の専門業者もあり、施工にあたっては、遺骨に含まれる有害物質を除染したのち、人骨と判別できないくらい細かく砕き、業者の手配した船に乗って、できるだけ人目につかない所で行うなど周辺環境に十分配慮します。
料金体系は、散骨を行う場所の他、船を貸し切るのか、他の家族と合同で散骨を行うのか、立合いをせず業者に散骨を委託するのか等によって異なります。
③各行政機関への手続き
・国民健康保険証、介護保険証等の返却
国民健康保険証、後期高齢者医療保険証、介護保険証、障害者手帳など、市区町村が発行する医療や介護に関する資格証を役所の各発行窓口で返却します。各保険料について、死亡した月以降のものは納付証が届いていたとしても支払う必要がありません。逆に死亡月までの保険料で未払いのものがあれば精算の手続きが発生する場合があります。
・個人番号カード、住民基本台帳カード、印鑑登録証の返却
死亡届と同時に効力が消滅しますので、カードを裁断の上、処分しても問題ありませんが、個人情報の取扱いに慎重を期すのであれば、役所の発行窓口で引き取ってもらう事も可能です。
・運転免許証、パスポートなどの返却
それぞれ有効期限があるため、時間の経過と共に失効してしまう性質がありますし、死亡に伴う返却の義務もありません。しかし、身分証明書として悪用される危険性も高いものであるため、個人情報の取扱いに慎重を期すのであれば返却の手続きを行います。運転免許証の場合は最寄りの警察署、パスポートの場合は旅券事務所が窓口になります。
・年金事務所への届出
死亡後も年金が振り込まれ続けることを防ぐため、国民年金や厚生年金を受給している方が亡くなった場合には、年金受給権者死亡届を提出し、年金を止めるための手続きを行います。ただし、日本年金機構にマイナンバーが登録されている人の場合は、原則として届出が不要です。年金は後払い制のため、年金の受取用口座を凍結してしまえば、年金の振込みを停止することが可能です。
・固定資産税、住民税、自動車税の納付、納税管理人の届出
市町村から課されるこれらの税金について、死亡時に未払いのものがあれば納付の手続きを行います。なお、固定資産税はその年の1月1日時点の不動産所有者に、住民税は前年の所得に応じてその年の1月1日に、自動車税、軽自動車税についてはその年の4月1日時点の自動車、バイク等の所有者に課税されるという仕組みであるため、死亡時に税金の納付書が届いていない場合でも支払義務が発生している場合があります。この場合は、それぞれの税金を所管する窓口に出向き、納税管理人の届出をしたうえで、納付の手続きを行います。
④賃貸住宅の明け渡し手続、遺品整理
・賃貸住宅の解約・明け渡し手続
自宅が賃貸住宅の場合は、貸主や不動産管理会社と連絡をとり、不動産賃貸借契約の解約手続、部屋の明け渡しと鍵の返却、家賃の精算、敷金および原状回復費用の精算などを行います。
通常、借主から不動産賃貸借契約の解約の申出をする場合、少なくとも1ヶ月前には申出する必要があるため、死亡後すぐに申出をしたとしても、最低1ヶ月分の支払は必ず発生することになります。よって、概ね死亡後1ヶ月以内を目安として、自宅の遺品整理をしたり、郵便物が届かないように転送設定をしたりします。
また、退去立ち合い当日は委任者に代わり、部屋の明け渡しを行い契約時に受領した鍵を貸主・管理会社へ返却し、精算書類に署名・押印をして解約手続きは完了することになります。
委任者が自宅で亡くなられた場合は貸主から原状回復費用の請求をされる事があります。特に死亡してから発見までにある程度の時間がかかり、遺体の腐敗が進んでいた場合には、異臭を取り除く作業や壁紙や床材を交換する作業の費用など、多額の損害賠償を請求される可能性があります。そういうリスクを避けるためにも、当事務所では委任者と受任者の間で定期的に連絡を取り合ったり、民間業者の提供する見守りサービスを利用するなどして安否確認を行い、異変が生じた場合にはいち早く対応できるようにしております。
・遺品整理
遺品整理は通常、専門の業者を手配して行います。荷物の量によって料金も変わりますが、無料で見積もりを取ってくれる業者もありますので、死後事務委任契約の締結前後に部屋を見てもらい、遺品整理費用にどのくらいかかるのか、ある程度把握しておきます。実際の作業は一人暮らしの方でも、一日がかりになるのが通常です。遺品の中から貴重品や重要書類が出てくることもあるため、作業に立ち会って、廃棄するもの、取っておくもの、業者に買い取ってもらうものを選別していきます。
なお、遺品の中に位牌や仏壇などの祭具がある場合は、寺院など帰依している宗教者に引き取ってもらう方法もあります。通常の廃棄処分をするのに抵抗がある場合は、事前に寺院等に相談することをお勧めしています。
⑤介護施設や入院費など諸費用の支払
死亡時に介護施設に入所していたり、入院していた場合は施設利用料や入院費の精算が必要になります。これらの費用は基本的には月毎に振込み、口座引落などで支払をしているため、受任者は死亡月の利用分を精算します。
入院費がどれくらいかかるかについては、現時点で特に持病もなく健康状態に問題がない方であれば予測がしづらいですが、所得に応じた自己負担限度額や個室に入院した場合の差額ベッド代の相場などから予測します。個室を利用して入院が長期間にわたった場合、1ヶ月の入院費が数十万単位の高額な請求になることもあります。
施設や病院もある程度支払いを待ってくれますが、民間の入院・医療保険に加入している場合でも保険料の支払は数ヶ月後になるため、これらの支払にあてるための資金は契約時に十分に確保しておく必要があります。
⑥公共料金等、各種契約の解除
人は普段の生活の中で様々なサービスを利用しています。主なものとしては、電気、ガス、水道の公共サービスですが、他にも固定電話、携帯電話、インターネット接続サービスなどの通信機器に関する契約、新聞・雑誌などの定期購読契約、クレジットカードの利用契約など実に様々です。
死亡後に放置しておくと、サービスを利用していなくても年会費や基本料金などの費用が発生することになりますし、明け渡した後の自宅に請求書がいつまでも届き続けるといった事態にも陥ってしまいますので、これらのサービスの解約手続きや利用料金の精算も死後事務委任契約で果たす重要な任務の一つです。
解約手続きのためには、各サービスのカスタマーセンターに電話をしたり、契約をした店舗に足を運んだりします。スムーズに手続きに応じてもらえる事もあれば、ご遺族の方から連絡下さいと返答される事もあるなど、各手続きの窓口によってその対応が様々です。電話をしただけでは解約手続きに応じてもらえない場合、委任契約書の写しを相手方に送付して解約手続きの権限がある事を説明するといった地道な作業を根気よく続けていく必要があります。
手続を漏れなく行うためには、委任者の生前、どのようなサービスを利用しているか詳細を確認しておくことが重要ですが、委任者自身もいくつか見落としているものがありますので、当事務所では委任者の死亡後に郵便物の転送設定を行い、送られてくる請求書やカタログ、ダイレクトメールを確認してして漏れがないように注意しております。